漫画「シグルイ」は超傑作なので読まないと損する

 

ふとゲームのニュースを見ていたら、こんな記事を見つけました。

このゲーム制作者のFassihiさんは在日経験のあるアメリカ人で、チャンバラ映画だけでなく、サムライを主題にした漫画も好きなそうです。

バガボンドは4000万部を超える単行本の売上があるので、マンガ好きには世界規模での認知度があると思います。その一方でシグルイはそこまで発刊されたわけではなく、知らない人が多いでしょう。

しかし、シグルイは間違いなく名作です。そのシグルイを、2018年の今になっても挙げてくれたことが、私はとても嬉しいのです。

 

シグルイの物語はこう始まる

江戸時代の、駿府城(すんぷじょう)という場所からお話しが始まります。二人の若い侍の、決闘の場面です。

いきなり最終決戦

城主と大名がずらりと見守る中、登場してきた藤木(ふじき)という侍には、左腕がありません。そして次に現れた、伊良子(いらこ)という侍は、目が見えません

 

この死合いを見届けるために呼ばれた数十もの大名たちは、あっけにとられます。普通に考えれば、片腕だけでは剣を振るうのに馬力が発揮できません。そして目が見えないとなれば、相手に攻撃を当てることすらできないのです。

「こんなふざけた対決を城内で開いて、どういうつもりだ」と、怒りを口に出す大名も出るほどです。

二人に何があったのか

決闘の場面から転換して、時間はその七年前に戻ります。

物語は過去からさかのぼり、この二人の若者が辿った人生を追っていきます。そして徐々に徐々に、なぜ真剣で斬り合う運命になったのかが、明らかになっていくのです。

当然最後には、その駿府城での決闘でどちらが勝ったのかを、我々は知ることとなります。そして、その後の結末も。

 

シグルイが傑作である理由

傑作とは、「読み返すたびに、新しい発見がある」作品のことです。シグルイはまさに、その定義に当てはまります。

深遠な物語

シグルイは、短編小説「駿河城御前試合」が元になっています。そしてその原作を揺るぎない軸として、大幅な改編が加えられ、発展的なお話しになっています。

新たな登場人物や新たな筋道が、複雑にたくさん盛り込まれており、そしてそれらが著者の独りよがりの蛇足になることは無く、美しくまとまっているのです。

精巧なパズルを解き明かせ

この作品の凄いところは、マンガとして成立させつつも、数多くの隠された物語が同時に存在している点にあります。つまり、気楽に読んでも十分最後まで楽しめるけれども、頭を働かせて暗示された背景を理解することで、さらに楽しめるのです。

物語の中のあちこちに何かを仄めかすような表現がたくさんあり、引っ掛かりを感じながら読み進めることになると思います。それらの点と点を結ばなくてはなりませんが、結びつけるための線が述べられていません。

つまり、疑問をふわりとこちらに投げかけられますが、その答えが作品中に書いていないのです。

登場人物の発言や表情、過去の出来事、場面ごとに描かれた情景、そして語り手の説明などがカギとなります。文学作品のように、シグルイを精査しながら読んでみるのも、きっと面白いでしょう。

最後を最初に持ってきた効果を最大限に

シグルイは全部で15巻に及ぶ長編です。場面によっては、進展が遅いと感じたり、話が横道に逸れてしまったり、抽象的すぎて理解できない場面もあるかと思います。

しかし我々は、この物語がどこに向かうかを知っているのです。シグルイの冒頭に描かれた通り、最後には、藤木と伊良子は命を賭けて闘うのです。

この物語構成は、ちょうど暗闇の海から見た灯台のような役割を果たしています。たとえ物語が冗長になったとしても、我々は核心を見失うことは無いのです。

 

終わりに

シグルイは、時代劇のチャンバラであったり、剥き出しの殺戮表現が多かったりと、「子供からお年寄りまで」というジャンルには収まりません。しかし、物語の構成や、登場人物や、その心理描写は、一般のマンガからは突出した作品になっています。

ぜひ、読まれてみてはいかがでしょうか。