なぜ「○○」は、拒食状態から急に復活したのか

 

 

注意

この記事では、シグルイの隠された物語を解説します。

シグルイをまだ読まれていない方は、ぜひ本編を一読されてから、以下の説明に進むことをお勧め致します。

 

 

 

なぜ「三重」は、拒食状態から急に復活したのか

逃げた幸福

岩本三重は、幸せな結婚をする予定でした。彼女の心は、すでに幸福で満たされています。

しかしそんな中、その花婿は目を潰され、屋敷から叩き出されたのです。

彼女の心は凍り付きました。精神を病み、摂食障害に陥り、体は骨と皮だけになってしまいました。

謎の復活劇

重度のこころの病から立ち直るのは不可能かと思われましたが、三重はなぜか復活を遂げます。

薬の服用や、投与もありません。専門医の心理療法なんてものもありません。三重本人もその周囲も、別段何も変わったことがないようです。

しかし、彼女は急に食欲を取り戻したのです。こんなことがあり得るのでしょうか。

偶然では無い

シグルイの中では明白には書かれてはいませんが、背景にはしっかりとした理由があるのです。

まず第一に、作品中に見逃すことのできない一文が、こう書いてあります。

「その三重に食欲が戻ったのは、何者かの手により虎眼流剣士たちが討たれ始めた時期と、ぴたりと符合する。」

 

我々はこの何者かが伊良子清玄であることを知っています。そして、『ぴたり』と符合するわざわざ強調して書いてあることから、三重とその事件が関連していると考えることができます。

よってこの暗号文は、

「その三重に元気がもたらされたのは、盲目となった伊良子清玄が虎眼の弟子たちを殺し始めたことと、大きな関係がある。」

と置き換えることができます。

 

天才剣士の逆襲が始まる

伊良子が帰ってきた

放浪の身となった伊良子清玄は、賎機検校(しずはたけんぎょう)に取り入ります。かつて何の後ろ盾もなく、身一つで虎眼流の懐に入ったことを考えれば、検校の愛顧を受けるのは造作もないことだったでしょう。

ここで伊良子は、同じく野望を燃やす検校にこう言ったのです。「盲目となった私が、虎眼流の総統となる」と。

この伊良子の言葉と、検校の思惑は合致します。芸と学識なら目開きに負けない検校でしたが、さすがに剣の世界ではどうやっても無理だと考えていたのです。そこへ盲目でありながら、必殺「無明逆流れ」を使う天才剣士が現れたのです。

こうして、虎眼流の高弟どもを一掃し、そこに伊良子清玄と賎機検校の一派が乗っ取る企てが誕生したのです。

 

賄賂で虎眼を裏切れ

検校にはカネがあります。神君・徳川家康の加護を直接受けていますから、大名にひけを取らない資金力があるのです。

伊良子は検校と組むことによって、二人の重要人物を買収しました。

まず濃尾三天狗の一人、金岡雲竜斎(かなおかうんりゅうさい)です。伊良子が岩本虎眼と斬り合う際に、金岡には自分の正当防衛の証人となってもらう算段です。法を犯すことなく、あくまでも公明正大に岩本道場を継がなくてはならないからです。

そしてもう一人が、興津三十郎(おきつさんじゅうろう)です。興津には、虎眼の弟子たちの動向を漏洩してもらう任務を与えました。それぞれの門弟たちの行動を先回りし、暗殺するにために重要な役割です。

 

三重に与えられた劇薬の正体

地獄から天国へ

伊良子は、三重と接触する必要が出てきました。しかし、いくら伊良子といえども、虎眼の屋敷に直接忍び込むのは危険が大きすぎます。かといって、衰弱し病人である三重が、屋敷の外に頻繁に外出するとも考えにくいので、外部で接触することもできません

ここで伝言役となったのが、内部の人間、興津三十郎です。虎眼流の内部の動きを伊良子に漏らしていただけでなく、非常に重要なもう一役をかったのです。

興津は頃合いを見計らっては、身体衰弱の三重に、次のように述べました。

 

三重殿、申し上げたき義がございまする。

伊良子清玄殿はその武芸が認められ、やんごとなき客人として、神君徳川の賎機検校家にて、手厚くもてなされておりまする。

伊良子殿は、貴方との仲を切り裂いた道場の連中に、処罰を与えるとのお考え。

そしてその後、しかるべき時に、三重殿を妻として迎えるべく参られるとのお話でござる。しばらくお待ちくださるよう願い奉る。

 

笑う三重

三重は笑いません。不幸の連続で、笑うことなど忘れてしまっているからです。

 

しかし、氷のこころであるはずの三重は、再び笑います

背中を縦に割られた蝉の抜け殻は、伊良子による刀の一閃を示しています。虎眼の弟子の死体が増えるほど、別れた花婿との再会が近づくのです。

三重の肉体と精神の完全復活

再び念願の花嫁に

伝言によって聞かされた、指定されたよき日をいよいよ迎えました。およそ二年ぶりの、伊良子清玄と再会の日です。

痩せさらばえた、かつての三重の姿はありません。花婿を思う気持ちが、三重の体を艶だたせ、色気を放つようにまでさせたのです。

その乙女は、琵琶とうたの披露の最中に、ふと席を外します。婚礼の儀式のために、三重は純白の花嫁衣裳に着替えるのでした。

 

まとめ

一年を超えて拒食症に苦しむ三重のもとに、思いもよらない相手から伝達が入る。その相手とは、かつての自分の花婿、伊良子清玄であった。

伊良子は、「三重殿との婚約を引き裂き、自分を追放の目にあわせた虎眼流一門に復讐する」と言うのだ。

そしてさらに、「今一度、三重殿を妻としてお迎えするために、岩本の御屋敷へと伺う」と付け加える。

この一報は、三重に衝撃をもたらし、何よりもの薬となった。三重の氷の心は春を迎え、恋焦がれた殿御に再び会えると思うと、食べ物が喉を通るようになったのである。